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田母神論文を読んで(2)前半

いよいよ論文内容に突っ込んでいく。
非常に長くなるので全後半に分けます。

今回は朝日新聞紙上での
11月11日「検証 田母神論文」の記事より秦郁彦氏(現代史家)
11月13日「私の視点」の記事より北岡伸一氏(東京大教授)
のコメントを引用させていただきます。

それではまず出だしから。
《論文より》 日本は19世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。

■秦氏
「満州事変はどうだったのか」
と反問するだけで崩れてしまう論だ。
満州事変は、日本の関東軍が謀略で鉄道を爆破し一方的に始めた戦争だ。
謀議者から実行部隊の兵士まで、すでに関係者の多くの証言がある。
当時の軍首脳も政府も追認し、予算も支出している。
日中戦争も大東亜戦争も相手国の了承なしに始めた戦争だ。


■北岡氏
満州事変が、石原莞爾ら関東軍の幕僚による陰謀であたことは、
誰でも知っている事実である。



この論文、いきなり根底から崩壊します。
もはや何の説得力も持ちませんね。
都合の悪い事実は認めたくなかったのか、ただ単に知らなかっただけのか…
あまりにお粗末。
《論文より》 現在の中国政府から「日本の侵略」を執拗に追求されるが、我が国は日清戦争、日露戦争などによって国際法上合法的に中国大陸に権益を得て、これを守るために条約等に基づいて軍を配置したのである。これに対し、圧力をかけて条約を無理矢理締結させたのだから条約そのものが無効だという人もいるが、昔も今も多少の圧力を伴わない条約など存在したことがない。

少し考えてみよう。

逆に中国が日本に圧力をかけて理不尽な条約を結ばせ、
日本国内に中国の軍隊を配置し、九州沖縄を中国の領土とする、
としても、これは合法的な条約だから「侵略」ではなというつもりか?
恐らくそのように考える日本人はひとりもいない。
条約を結べば「侵略」にはならないという論理は成り立たない

この論文では、
戦勝国や立場の強い国が、無理矢理にでも理不尽な条約を結ばせても、
これは当然で合法的なことである、と主張している。

一方、論文の後半で東京裁判はけしからん、とする箇所が出てくる。
勝った時は「合法だ、何が悪い?」と言っておきながら
負けた時は「あんなもの認めない」と騒ぐのはあまりに滑稽。
言ってることの一貫性がありません

ついでに言うと、この文章は非常に奇妙。

「圧力をかけて無理矢理結んだ条約は合法か無効か」
という話を自ら持ち出しておきながら
「すべての条約は圧力を伴っている」
と片付けるってさぁ……なんの答えにもなっていないんですけど。

だから、無効なの? 合法なの?
自分で話を振っておきながら、はぐらかすしてすり替える。
読まされる方としては非常にストレスを感じる。


ここから第三段落全部を3つに分けて紹介する。
《論文より》第三段落1/3 1928 年の張作霖列車爆破事件も関東軍の仕業であると長い間言われてきたが、近年ではソ連情報機関の資料が発掘され、少なくとも日本軍がやったとは断定できなくなった。「マオ( 誰も知らなかった毛沢東)( ユン・チアン、講談社)」、「黄文雄の大東亜戦争肯定論( 黄文雄、ワック出版)」及び「日本よ、「歴史力」を磨け( 櫻井よしこ編、文藝春秋)」などによると、最近ではコミンテルンの仕業という説が極めて有力になってきている。

■秦氏
歴史学の世界では、問題にされていない説だ。
張作霖爆殺事件が関東軍の仕業であることは、
首謀者の河本大作はじめ関係者が犯行を認めた。
このため田中義一内閣が倒れ、「昭和天皇独白録」でも、
「事件の首謀者は河本大作大佐である」と断定されている。
他にもコミンテルン謀略説が論文のあちこちに出てくるが、
いずれも根拠となる確かな裏付け資料があいまいで、
実証性に乏しい俗論に過ぎない。


■北岡氏
ごく一部にそういう説はあるが、まったく支持されていない。


それにしても恐ろしく説得力を欠く論文ですね。
ソ連の資料、3つの文献の内容には全く触れない。
なぜ「少なくとも日本軍がやったとは断定できなくなった」のか
その根拠はすっ飛ばす。
なぜ「コミンテルンの仕業という説が極めて有力」になったのか
その根拠もすっ飛ばす。

とてもじゃないけど、まともな論文にはほど遠い。
こんなんで「この論文は正しい」と信じられる人ってすごいよね。
《論文より》第三段落2/3 日中戦争の開始直前の1937年7月7日の廬溝橋事件についても、これまで日本の中国侵略の証みたいに言われてきた。しかし今では、東京裁判の最中に中国共産党の劉少奇が西側の記者との記者会見で「廬溝橋の仕掛け人は中国共産党で、現地指揮官はこの俺だった」と証言していたことがわかっている「大東亜解放戦争( 岩間弘、岩間書店)」。

何だろう、このとてつもなく中途半端な記述は。
「これまで侵略の証みたいに言われてきた」と言うのなら当然
「しかしそれは違う」と否定すると思いきや、そうはしない。
ある証言を、ただ紹介しただけで終わり。
だから何なのさ? その証言の真偽は?
読んでいてイライラさせられる。

ま、筆者自身が真偽があやふやだと分かっているから
このように中途半端にしか書けないんだろうけどね。

この直後、こんなことを言い出す。
《論文より》第三段落3/3 もし日本が侵略国家であったというのならば、当時の列強といわれる国で侵略国家でなかった国はどこかと問いたい。よその国がやったから日本もやっていいということにはならないが、日本だけが侵略国家だといわれる筋合いもない。

あのぅ…前の文章と何のつながりもありませんが…

張作霖爆殺事件、廬溝橋事件と続けてきて
なんで突然このような事をここで言い出すのか意味不明。

それを言いたいのなら、
当時の列強の行為と日本の行為を挙げていって比較し、
この両者の行為のどこに違いがあるのか、とした後に
「もし日本が〜」と展開するよね、普通の人なら。

しかしまあ、これって要するに、
日本も他の列強国もみんな侵略国家だったと認めてるわけだよね。
やってはいけないような行為をよその国も日本もやったということだよね。
みんなやってんじゃん。なんで日本だけ責められるんだよっ!
と、開き直ってるんだよね。

我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣
という結論と明らかに矛盾してますが、大丈夫でしょうか。
《論文より》 我が国は満州も朝鮮半島も台湾も日本本土と同じように開発しようとした。 我が国は他国との比較で言えば極めて穏健な植民地統治をしたのである。 我が国は満州や朝鮮半島や台湾に学校を多く造り現地人の教育に力を入れた。 道路、発電所、水道など生活のインフラも数多く残している。

■北岡氏
善政をしけば植民地支配は正当化されるのか。
支配された人々は納得するのか。
仮に朝鮮または清朝が日本を植民地にして主権を奪い、
他方で善政をしき日本を経済発展させれば、日本人は満足したか。
断じてノーである。
現に田母神氏は、アメリカが戦後日本に繁栄をもたらしたことを評価していないではないか。


立場を逆にして考えてみればすぐに分かります。
この「いいこともした論法」がいかに身勝手な論理かが。

教育に力を入れた?
自国の言語を奪われ、日本語を強制され、日本語の名前をつけられ、
自国の伝統や文化を奪われ、日本人となることを求められた。
もし日本が他国からこのようなことされて満足するか。
そんなことは絶対にあり得ない。

それにこの論法で植民地統治を正当化すると
中国のチベットに対する統治も正当化されてしまいますよ?
鉄道つくってあげたからと正当化できますか?
逆に「経済的侵略」と怒っていますよ。
古い建物壊して近代化してやる、と言って喜びますか?

筆者は論文の後半で、
日本がアメリカのシステムに近づいてことを嫌い、
日本の伝統文化が壊されていくことを嫌い、
それらを「文化大革命」と表現する。

そんな筆者が「穏健な植民地統治」なら日本が他国に支配されてもいい
と考えるはずがない。
筆者だけではなく、日本人なら誰もが。

だからね、いい事をしたと言って植民地支配を正当化しようとしても

そんな論理は全く通用しないのです。


後半に続く。
コメント(2) 

コメント 2

おかだ

こんにちは。
少し気になる点を指摘させていただきます。

>逆に中国が日本に圧力をかけて理不尽な条約を結ばせ、
日本国内に中国の軍隊を配置し、九州沖縄を中国の領土とする

田母神氏は、日本が中国に圧力をかけて条約を結ばせたとは書いてませんよ。中国に軍を配備したのは合法的に行われたと言ってるだけです。いや違う!圧力をかけて条約を結ばせたんだ!っていう人に対する説明として、引用しているだけでしょう。まぁ文章が稚拙で説明不足なのは確かですがね。
ですから管理人さんのこの例えは適切ではないと思います。それに、いきなり九州沖縄が領土に、っていうのもよくわからないんですけど、、、。軍を配備しただけなんだから侵略にはならないでしょ。

>戦勝国や立場の強い国が、無理矢理にでも理不尽な条約を結ばせても、これは当然で合法的なことである、と主張している。

どこにそんなこと書いてあるんですか?

>一方、論文の後半で東京裁判はけしからん、とする箇所が出てくる。

東京裁判は事後法により裁かれたもので、他の戦争裁判とは性質が違うものですよ。なんでもかんでも一緒くたにするから、区別がつかなくなるんですよ。

>この「いいこともした論法」がいかに身勝手な論理かが。
事実を述べただけで、なぜ「身勝手」になるんですか?

>教育に力を入れた?
これは客観的な事実ですよ。

>自国の言語を奪われ
奪ってません。その証拠にハングルは日本統治時代に普及しました。

>日本語を強制され
当時は日本なんだから日本語の授業ぐらいありますよね。ちっともおかしくないです。

>日本語の名前をつけられ
創始改名のことですか?これは強制ではなくで任意ですよ。
強制なら100%の人が改名してますよね。でも実際には70%ほど。改名せずに軍の大将までなった人もいます。強制ならこんなこと考えられないですよね。

とにかく、日本が朝鮮に、学校を作り、病院を作り、インフラを整備し、就学率が飛躍的に伸び、平均寿命が伸び、人口が2倍にまで増えたことは歴史的な事実です。

>中国のチベットに対する統治も正当化されてしまいますよ?

中国がチベットに何をしているか知ってますか?
武力で侵略し、寺院を破壊し、何百万もの人を殺し、あげくには漢人を大量に送り込みチベット人の血を薄め、民族そのものを抹殺しようとしているのですよ。鉄道によって大量の漢人が流入するのを警戒するのは当然のことです。「経済的侵略」などという生易しいものではありません。「民族浄化」、「文化的破壊」というべきものです。
日本の朝鮮統治とは明らかに異なります。

>「穏健な植民地統治」なら日本が他国に支配されてもいい
と考えるはずがない。

当時の朝鮮の状況を知らない人の台詞です。日本が当時の朝鮮と同じ状況なら考えざるをえないでしょう。

>いい事をしたと言って植民地支配を正当化しようとしても

そもそも日韓併合は、双方の合意の元でなされたものですから、正当化うんぬんという議論すること自体がおかしいのです。条約によって双方合意のもとで合併した。それ以上でもそれ以下でもありません。もちろん中には不満をもつ人もいるでしょうけど、こういう状況まで追い込んだのは朝鮮人自身であることを知る必要があります。併合前の朝鮮は、政治が腐敗し国土が荒廃し死に体同然。このままなくなるかどこかの国に助けてもらうしかなかったのです。一人で生きてゆけない国はこうするしかなかったのです。
私も、いい事をした、と押し付けがましくいうつもりはありません。しかし、日本統治時代に朝鮮の生活水準があがり、平均寿命も格段に伸びたことはまぎれもない事実です。事実は事実として認めることが大事なのではないでしょうか。その上で批判すべきことは批判すべきです。認めることは認める!それができないと、両国は一生歩み寄れないと思います。

管理人さんは、事実誤認や勉強不足な感がやや見受けられたので、生意気ながら書き込みさせていただきました。
失礼にあたるようでしたらお許しください。

長文失礼しました。
by おかだ (2008-12-02 13:51) 

管理人

>田母神氏は、日本が中国に圧力をかけて条約を結ばせたとは書いてませんよ。

■例えばこのような場合でも、条約さえ結べば全て合法となるのか?
と分かりやすく言っているだけです。
現に田母神氏は「圧力の伴わない条約など存在しない」と断言しています。
実際に日本は台湾・中国・朝鮮を日本の領土としています。
ただそれらの国々に軍を配備した「だけ」ではないでしょう。

>どこにそんなこと書いてあるんですか?

■もちろん意訳ですが理解できませんか?
日清戦争での戦勝国日本が、「条約を無理矢理締結させた」としても
条約には圧力は必ず伴うのだから無効ではない→合法だ
合法である以上何も悪くないだろ。
という考えであるということは誰でも分かると思います。

>他の戦争裁判とは性質が違うものですよ。

■東京裁判の是非を問うているのではありません。
勝った時は勝者の論理で不平等条約を結ばせ領土を奪っても当然だと言い放ち、
負けたときは勝者の論理で事を進めるなと批判する。
この矛盾を指摘しているのです。

>事実を述べただけで、なぜ「身勝手」になるんですか?

■「事実を述べる」ことに対して身勝手といっているのではありません。
「いいこともしたから植民地支配は悪くない」というのが
支配する側の身勝手な論理だと言っているのです。

>教育に力を入れた? これは客観的な事実ですよ。

■私が「教育に力を入れた」ことを否定していると解釈されましたか?
その内容によって評価はまったく違うものになるでしょ?

>とにかく、日本が朝鮮に、学校を作り、病院を作り、インフラを整備し、就学率が飛躍的に伸び、平均寿命が伸び、人口が2倍にまで増えたことは歴史的な事実です。

■私はこれらのことを否定していませんが?
日本の領土となったなら自国の領土を整備するのは当たり前のことです。
それらのことが植民地統治を正当化する根拠にはならないと言っているのです。

>中国がチベットに何をしているか知ってますか?

■だから中国がチベットを近代化させ、教育に力をいれ、インフラを整備し、
生活水準も格段に向上させたとしても、いい事もしたと正当化されるわけないでしょ。
と言っているのです。

>日韓併合は、双方合意。中には不満をもつ人もいるでしょうけど、

■韓国側は違法で無効だとの見解を出していますが?
武力によって強引に併合させられたという認識ですが?

>こういう状況まで追い込んだのは朝鮮人自身。併合前の朝鮮は、政治が腐敗し国土が荒廃し死に体同然。このままなくなるかどこかの国に助けてもらうしかなかったのです。一人で生きてゆけない国はこうするしかなかったのです。

■これはまた随分と傲慢な物言いですね。内政干渉も甚だしいですね。
政治が腐敗し国土が荒廃したら支配されて当然だと。向こうからお願いしてきたのだと。
助けてあげたとするなら、なぜいつまでも支配し続けたのでしょう。
なぜ独立させなかったのでしょう。

>日本統治時代に朝鮮の生活水準があがり、平均寿命も格段に伸びたことはまぎれもない事実です。事実は事実として認めることが大事なのではないでしょうか。

■何度も言うとおり、そのようなことを否定した覚えはありません。
by 管理人 (2008-12-07 22:07) 

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